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東北関東大震災被災労働者人民支援大運動を

―中東情勢―   〈上〉  (981号7面)

帝国主義支配を根幹から揺さぶる
中東―アラブ諸国労働者人民の実力決起

 岸川 貞雄

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アラブ諸国を幾度となく覆う巨大な大衆決起の波

 アラブ諸国における大衆決起は、さらに拡大・波及を続けている。各国で様々な形態で表出し、国家権力の厳しい弾圧に直面しつつも、激烈に闘いぬかれている。その先頭に立っているのは、学生・青年である。学生・青年たちは苛烈な弾圧を受けながらも、インターネットを駆使して大衆決起を組織化している。その闘いのうねりは、アラブ諸国の旧来の政治地図を大きく塗り替えるものとなっている。リビアでの内戦も、帝国主義の介入が強まるなかにあっても、収束の気配はない。
 チュニジア、エジプトをはじめアラブ諸国では、若年層が増大する一方で、自立した経済活動もできず、政治参加や発言を許されないまま中年にさしかかる者が続出している。米帝―帝国主義の後押しを受けた政府が、わずかばかりの「福祉」と引き換えの秘密警察を使った強権政治に対する不満を蓄積させてきた。そして、資本主義世界経済が破局を迎える中で高失業が強制され、学生・青年が疎外感を蓄積させていった。加えて、情報技術が進展し、情報への渇望が呼び覚まされた結果、「尊厳」を求める運動が拡大していったのである。
 ここでは、爆発を続けるアラブ各国の大衆決起の状況について見ていく。

チュニジア

 チュニジアでは、1989年以来の長期独裁政権を続けてきたベンアリを打倒した労働者人民の反政府運動が、今も熱く燃え広がっている。
 旧与党・「立憲民主連合」(RCD)の解体が決定的となる一方で、3月3日に暫定大統領・メバザアは制憲議会選挙を7月24日に行なうことを発表した。しかしメバザア自身は当初、任期を3月15日までとしていたが、その後も暫定大統領にとどまっている。そして、カイドセブシ内閣を組織しつつ、チュニジア労働者人民の決起をどうにか制動しようと画策している。6月8日、首相・カイドセブシは、その制憲議会選挙の10月23日への延期を発表した。「有権者登録の時間が足りない」ことを理由に挙げているが、結局は「ジャスミン革命」の勢いを押し留める時間稼ぎでしかない。
 その間に、米帝―帝国主義は、チュニジアへの介入を強めてきている。伸長が予想されるイスラム原理主義勢力を押さえ込み、ブルジョア政治支配を維持しようというのだ。とりわけ米帝・オバマは、穏健派勢力のイスラム主義政党・「エンナーダ(目覚め)」への支援を明確にしている。エンナーダの指導者らは五月にワシントンを訪問。「われわれは宗教政党ではなく世俗政党であると米側に説明した」と、米帝のバックアップをとりつけている。
 チュニジア労働者人民は、前大統領・ベンアリの責任追及の闘いを続け、4月15日には亡命先のサウジアラビアにベンアリの送還を要求する対大使館デモを闘っている。これらの闘いを受け、裁判所は6月20日、ベンアリとその家族に対して、「公金横領」などの罪で禁固35年と罰金9100万ディナール(約53億円)を言い渡した。さらに、ベンアリらは合計93件の罪に問われているという。他方、今までベンアリ政権による激しい弾圧を受けてきたイスラム原理主義組織・「ナフダ」が、3月の段階で政党を合法化している。亡命していた指導者・ガンヌーシがチュニジアに戻るなど、勢力の巻き返しに躍起となっている。
 アラブ諸国の激闘の発端となったチュニジア労働者人民の大衆決起は、なおも激しく闘われている。

エジプト

軍の制動を踏み越える大衆決起

 エジプトでは、前大統領・ムバラクの遁走後、軍最高評議会が実権を掌握し、米帝―帝国主義の後押しを受けながらエジプト労働者人民の大衆決起をどうにか圧殺しようとしている。
 軍による「改革」が一向に進まないことに苛立つエジプト労働者人民は、前大統領・ムバラクの責任追及の闘いを続けている。これに対して軍は事態を沈静化させるために、4月13日にムバラクと息子二人の拘束に踏み込んだ。ムバラクは「病状悪化」を口実に、責任逃れを狙っているが、悪あがきをすればするほど、労働者人民の怒りは増すばかりである。
 6月28日、若者グループの呼びかけで3000人近くがタハリール広場に集結し、元内相・アドリら前政権高官らの訴追の遅れに抗議する対内務省デモを闘い、デモ隊が警官らに石や火炎瓶を投げるなどして、治安部隊を圧倒した。最後は、軍が治安出動して弾圧し、約1000人が負傷する事態となった。7月8日、エジプト各地で、大衆決起を弾圧し800人以上を殺害した治安関係者らの訴追を要求して数万人が大規模デモに決起した。
 こうした大衆決起の収束を狙い、7月17日に首相・シャラフは軍最高評議会に内閣改造案を提出した。しかし労働者人民は、軍事法廷でデモ参加者を審理するなどの抑圧を強める軍最高評議会そのものへの不満を募らせているのであり、小手先のごまかしが通用するはずがない。
 大衆決起を先頭で牽引しているのは、インターネットを駆使して組織化を進めている学生・青年である。「4月6日運動」などの組織がネット上でデモを呼びかけ、そのデモに従来の民族・宗教勢力が乗っかっていく形で、大規模デモを実現させてきたのである。今後、大統領選を前に、米帝―帝国主義の介入が強まるのは間違いなく、これらの運動もまた新たな試練を迎えつつある。

人民議会選挙を焦点とした各勢力の動向

 軍最高評議会は、米帝―帝国主義のバックアップの下、「民主化」に向けた政治プロセスを進めている。新憲法の制定に向け、今年9月の人民議会(国会)選挙後に起草委員会を設けるとしている。
 9月の人民議会選挙をみすえた各勢力の動きも進んでいる。
 特に、ムバラク遁走後に旧与党・「国民民主党」(NDP)が解散した後、最大勢力となったムスリム同胞団は、合法政党として「自由公正党」を立ち上げ、国内のイスラム組織との共闘に向け、政治方針を明記した文書をイスラム諸勢力に送付している。「リベラル系」の世俗勢力である新ワフド党も、「自由公正党」との統一名簿で議会選に臨むなどの選挙協力を模索している。学生・青年層を代表する勢力が組織として統一されていないなかでの人民議会選挙となれば、1928年に創設され全国に強力な組織網を持つムスリム同胞団が圧倒的有利となるのは明白である。
 ムスリム同胞団の狷箸蠑,銑瓩魴念する多くの政治勢力は、「憲法改正」を優先し、選挙の延期を要請している。準備期間を確保し、同胞団主導の改憲を防ごうとしている。「4月6日運動」幹部の一人は、「一党支配と大統領権限を制約する新憲法が必要だ。改憲は、同胞団が選挙で勝つ前に行なわれなければならない」とした上で、「われわれの選挙準備が十分ではない事情もある」とも率直に認めている。これに対してムスリム同胞団は、権力の早期の掌握を見すえ、3月の国民投票で採択された暫定憲法に定められた手順に即しての議会選挙の迅速な実施と、その後に設けられる制憲議会での新憲法の起草を求めている。
 しかし、そのムスリム同胞団も一枚岩ではなかった。6月21日、指導部による旧来のトップダウンの運営方式に不満を持つ若手グループ約150人が、独自の世俗政党「エジプト現代党」の設立を発表した。若手グループは、指導部が「自由公正党」を設立し、そのメンバーを投票ではなく指令によって選んだことに反発している。「エジプト現代党」は新党結成の発表に当たって、人民議会(国会)選挙で17の他の世俗政党と共闘する計画を明らかにしている。こうした動きに対してムスリム同胞団指導部は、6月18日に改革派幹部を除名している。
 他方、1981年に当時の大統領・サダトを暗殺し、1997年にエジプト南部のルクソールで、日本人観光客ら62人を殺害したイスラム原理主義組織・「イスラム団」も、6月20日、合法政党「建設発展党」を結成することを明らかにした。設立趣旨として、同国の西洋化を防いでイスラム圏国家としてのアイデンティティを守り、開かれた政治システムの構築や社会問題の現実的な解決方法も探るとしている。
 こうしたなか、7月13日に軍最高評議会は、9月に予定されていた議会選挙を10月か11月に延期する方針を示した。若者団体や新興政党の主張に配慮したものとされる。
 米帝・オバマは、ムスリム同胞団との非公式の接触も開始し、取り込みを進めようとしている。国務長官・クリントンは「非暴力を約束している平和的なすべての政党と接触するのは米国の国益に合致する」「米国との話し合いを望むイスラム同胞団メンバーとの対話を歓迎する」とした。

パレスチナ連帯の闘いが爆発

 エジプトの大衆決起は、ムバラク政権打倒後、新たな段階を迎えている。
 より明確にパレスチナ労働者人民と連帯する闘いが、前進している。5月13日〜15日、ナクバ(「大災厄」=「イスラエル建国」が強行された日)63ヵ年を糾弾するパレスチナ連帯行動に巨万の労働者人民が結集、タハリール広場を制圧した。5月17日、5000人のデモ隊がカイロのイスラエル大使館を包囲し、治安部隊と軍による大量逮捕攻撃をものともせず、大使館突入を敢行している。
 さらに、4月27日には北シナイで、イスラエル向けの天然ガスパイプラインが、武装グループによって爆破されている。6月上旬に再開されたが、7月4日と7月12日にも、北シナイで天然ガスパイプラインが爆破された。イスラエルへのガス輸出については、ムバラク時代から「不当に安価で売られている」との批判があり、首相・シャラフは4月に、輸出契約見直しを公言したものの、依然継続していた。イスラエルはガス需要の約四割をエジプトからの輸入に頼っており、パイプライン爆破はイスラエルに大きな打撃となる。
 エジプト労働者人民の激闘を前に、軍最高評議会は、旧来の親イスラエル政策の転換のポーズを取り始めている。5月28日にエジプト政府は、パレスチナ自治区・ガザ南部のラファ検問所の通行規制を軽減、ガザの境界封鎖を大幅に緩和した。今回の緩和は人の行き来だけが対象とされ、金曜と祝日以外は境界線の通過が許可されることになった。また、一一月に予定される大統領選を前に、有力候補と目されるアラブ連盟事務局長・ムーサは、親イスラエル政策を踏襲しないことをうち出すことで、労働者人民からの支持獲得に躍起である。
 他方で、宗教対立も鮮明となっている。5月7日、カイロのインババ地区で、「コプト教からイスラム教に改宗した女性が幽閉されている」なるデマに煽動されたイスラム教徒がコプト教会と周辺の商店街への襲撃・略奪に手を染め、双方で計一二人が死亡した。インババ地区は「貧困地区」と目され、イスラム原理主義勢力の拠点地区とされる。近年では、ムスリム同胞団が路線転換する中、「ムハンマドの時代への回帰」を唱えるより排他的なサラフィー主義が勢力を伸ばしていた。ムバラクはサラフィー主義勢力を弾圧してきたが、ムバラクなき今、サラフィー主義が勢力拡大を狙って差別主義襲撃を強めているのだ。この動きに対して、5月13日にはカイロで宗教勢力間の融和を訴えるデモも起きている。
 イスラム原理主義勢力の跳梁をも踏み越え、パレスチナ解放をも含んだプロレタリア革命を展望するエジプト労働者人民の激闘がさらに前進しようとしている。